宝塚と先輩…今度こそ終わりたいけど念のため④
確かに言った。
確かに言ったさ。
先輩には「私が好きなのは芹香さんです」と言った。
それはその方がわかりやすいと思ったからなんだよ。
別にちなつさんのことを隠したわけじゃない。
私はキキちゃんだけじゃなくちなつさんも好きなんだよ。
それは確かなことなんだよ。
でも【宙組の2番手の人】という方が説明しやすくてわかりやすいじゃないか。宝塚を好きになり始めた人にはその方がわかりやすいと思ったんだよ。ほら、ポスターにも写ってるしさ。
隠したんじゃない。ただ言わなかっただけなんだよ。
まるで「結婚していることを隠したわけじゃない。言わなかっただけだ」と言い訳するクズ男のようである。
れいちゃんファンの先輩に誰を好きなのか聞かれた時、私はキキちゃんと答えた。ちなつさんのことは言わなかった。言わなかったというより、なんとなく言いそびれた。月組の3番手の人が好きです、と言ってもわからないんじゃないかと思った。
しかしながら、なぜだろう。ちくちくと心が痛む。
おまえはちなつも好きなんだろ!
なぜそれを言わない!!
ちなつに悪いと思わないのか!!!!
どこからかそんな声が聞こえてくる。
でもね、別にいいんですよ。
私はちなつさんに会ったこともないし、話したこともない。好きですと言ったこともないし、永遠の愛を誓ったわけでもない。だから言わなかったところで別に誰かにとがめられることはないのです。
でもね、私自身がとがめるんですね。
そうやって謎の罪悪感を抱いた私は『MESSIAH』と『CASANOVA』を貸したときに、この鬼畜な悪い役をやっていたのが鳳月さんです。このビジュアルで好きになりました。めちゃめちゃカッコいいんすよ。それから、れいちゃんの奥さんやっていたこの人も私の好きな人です。鳳月さんです。男役さんですが女役やってます。キキちゃんも好きだけどこの人も好きなんです、としつこいくらいに言って渡した。
そしたらどうやら先輩はちなつさんを覚えた様子だった。
ダンスが上手な人が好きな先輩はれいちゃんの他にもダンスが上手い人を探しているらしく、ある日「出島なんとかに出てた…」と言うので「それ、私の好きな鳳月さんが主役やってたやつです!」「そうそう、それに出てた人で」と続けたので、ちなつじゃないんかい!と心で突っ込みつつ、 確かにちなつさんはダンスの人ではないけどもと己を宥めた。
と同時に先輩がちなつさんを覚えたようだとこの時悟ったのだった。実際本人も「わかるようになった」と言っていた。
ちなみに出島で気になったのはありちゃんで、まぁ確かにそうだよねという感じだが、先輩がどこで出島を見たのかわからない。先輩はスカステには入ってないし、円盤も出てないと思うし、動画配信してるんですかね。配信事情全くわからん。
そんな先輩と12月の終わり、月組公演を観に行った。『WELCOME TO TAKARAZUKA -雪と月と花と-』『ピガール狂騒曲 』である。
今回はそれぞれB席の抽選を申し込み当選。蓋を開ければ先輩は私の斜め右前の席だった。別々に申し込んだのにこんなに近く当たるなんて、と思ったが友の会抽選の割り当てが単にこの辺りだったということなのだろう。
それは『ピガール狂騒曲』でのことだった。
もはやどのあたりでの出来事だったか覚えていない。中盤くらいだろうか。
ふいに私の斜め前で何かがガクっと動いたような気がした。それが何だったのか視界を広げて観察していると(観察してないで舞台に集中して)、なんと先輩の首から上があきらかにガクっと前に落ちたのです。
えっ?
いやいやいや。
まさかね。
気のせいであると信じました。
信じて疑いませんでした。
しかしまたすぐに、ガクっと落ちたのです。
寝てるうううう!
寝ておるううううううう!!
先輩が寝ておるよぉおぉぉ〜!!!!
なんということでしょう。
先輩が3〜4回ほど睡魔に襲われて落ちそうになっているのです。
えええマジかよなんだよ他の組も見たいって言ってたじゃん、あれは嘘だったのかよ、てかピガールってそんなにつまらん? え、つまらんの? さっきありちゃんが出てきたときオペラでめっちゃ見とったよね(先輩を見てないで舞台に集中して)、もう飽きちゃった? じゃあちなつさん見なよ。ちなつさん見とけば大丈夫だよ(何が?) やっぱりわかる月組生が少ないと見ててつまらんやつなのかなこれ? 個人的にはそこそこ面白いと思ったんだけどそれって贔屓目だったんか? そりゃめちゃくちゃ面白かったかと問われると「そうですよ!」と胸を張っては言えない部分もあるが、でもれいちゃんが95期だから月城さんも気になるって言ってたじゃんか、ちゃんと見とるんかい月城さんをsdjファぽいジャポjろあ!
もう、私は気が気ではありません。
舞台(特にちなつさん)を見てほしい気持ちもありますが、それよりも周囲のお客さんに「こいつ寝とるんか!」と嫌な気分にさせてしまったらどうしよう。それに寝ちゃうような公演に連れてきてなんかすいません…と諸々考えた末。
私は唱えました。
心の中で強く唱えたのです。
寝るな!
ちなつを見ろ!
それが功を奏したのか(そんなわけがない)、先輩は睡魔に打ち勝ったようでその後持ち直しました。
ちなつさん演じるウィリーもオペラでチェックしているようでした。
ひと安心。
終演後、珠城さんがどうとか、月城さんがこうとか、ありちゃんがああとかの話をし「あの旦那さんを演じてた…」と先輩が言いかけたので、よっしゃやっと来たちなつさんんんんんん!と密かにテンションを上げた私は、めっちゃ語りたいパッションを抑えて「ああ、鳳月さんですか?」と落ち着いた風を装って言った。
えー、あれが鳳月さんだったの!?
わからなかった〜!!
…え?
嘘だろ?
うん。
仕方ない。
仕方ないよ。
そりゃ最初はわからないよ。
興味ない人だと見分けつかないよね。
わかる。わかるよ、私も初めはそうだったもの。
観劇したのが12月27日で、こんなご時世なので幕間は特に先輩としゃべることなく過ごしたのです。先輩は公演プログラムを買っていませんでしたし、誰が誰とあらかじめ予習していなかったのでしょう(予習しとけよとは思うがそれは自由)。
ちなつさんが何を演じているのか伝えておかなかった私が一番悪いのでしょう。でもあまり言うと自分の好きな人をむやみやたらと宣伝しているみたいで、それはちょっと押し付けがましく思われ、はばかられたのです。
そしたらこうなった。
そろそろ覚えてくださいね。私の好きな鳳月さんを。